漢字だけで表記された万葉集の歌4500余首のうち、いまだ訓解されていない難訓歌が約40首もあり、名歌として人口に膾炙している歌を含め、訓解が誤っていると思われるものが相当数あることを知る人がどれくらいいるだろうか。更に驚くべきことに、万葉集の代表的な注釈書には、難訓歌に対し「訓義未詳」「後考を待つ」の記述が目立つ。現代の訓解の基礎となっているのは江戸時代に主張された訓解で、誤字説に基づく訓解も多い。歌を詠む者として、自分の歌を他人から「いい歌ですね」「この歌、好きです」と言ってもらったときは詠み人冥利に尽きるが、その人が、自分が詠んだときの心情と異なる内容の歌として理解し評価していることを知ったときほど、悲しいことはない。短詩型の歌は、公表すれば読者のものであるといわれるが、歌を詠む者としては、歌を詠んだときの自分の心情は、いつまでも変え難く大切なもののはず。
著者は万葉集の愛読者として、そんな眼で万葉集の歌を眺めたとき、1300年経っても何を詠った歌か理解してもらえていない難訓歌の歌々、詠み人の心情とおそらく異なる訓解をされている誤訓歌や誤釈歌の歌々、それらを詠った万葉歌の詠み人の無念さや悲しみを、ひしひしと感じていた。万葉集は、世界に誇るわが国最古最大の文化遺産であり、世界に比類なき最高の「世界文化遺産」である。歌を遺してくれた先人の、歌に託した心情を放置しておくことなく、かつできるだけ正確に訓解すること、少なくともその情熱を持つことこそが、後世に生きる日本人の責務であり、歌詠み人を「供養」することに他ならないと万葉集訓解の大海に漕ぎ出したーー。
第一部では難訓歌を、誤った先入観がもたらした難訓歌、訓解に語学以外の知識を必要とする難訓歌、唱詠歌と表記歌の乖離による難訓歌、これぞ超難訓歌、異なる原文があることによる難訓歌、歌の情況把握ができないことによる難訓歌、語彙の理解不足に起因する難訓歌の7つに分類し、38首を取り上げる。続く第二部では、定訓歌にみられる誤訓(準難訓歌)として、詠まれている事象を誤解した誤訓、意図的な誤訓、誤字説がもたらした誤訓、原文の誤記から生まれた誤訓、一字一音表記の歌における誤訓の5分類30首を取り上げる。最後に第三部では真相に迫る新釈歌(補追)として、万葉歌の再発見、弓削皇子に関する歌の謎の2分類7首を取り上げ、万葉集の正しい訓解に迫っていく。
和歌を愛する著者だからこそ成しえた、研究者とは異なる視点を持つ万葉集研究の大著!
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